2014年6月22日日曜日

「酸性食品・アルカリ性食品」再考 その2


3.食事摂取による体液の酸塩基平衡への影響

 食事灰化物仮説では、食物のミネラルの酸化と代謝による「燃焼」を同等と考えましたが、これは正しくありません。食物を燃焼したときには、NaKCaおよびMgのような金属元素の無水酸化物ができ、これが水と反応するとNaOHKOHCa(OH)2およびMg(OH)2が生成します。例えば、Naの無水酸化物は酸化ナトリウム(NaO)で、水と反応すると次の式のようにNaOHができます。
  NaO + H2 2NaOH
また、 ClSおよびPのような非金属元素からも無水酸化物ができて、水との反応でHCl H2SO4およびH3PO4が生成します。例えば、Sの無水酸化物は無水三酸化硫黄(SO3)で、水と反応すると次の式のようにH2SO4ができます。
SO3 + H2 H2SO4
食事灰化物仮説では、食物の燃焼によってできる酸やアルカリによって、食物の酸度・アルカリ度が決まると考えます。この仮説が提唱された20世紀初め頃には、酸は水に溶けてHを出す物質、アルカリは水に溶けてOHを出す物質を指したので、PS Clなどの陰イオンになるものは体内で酸性物質に、NaKCaMgなどの陽イオンになるものは体内でアルカリ性物質に変化すると考えることに抵抗がなかったようです。

しかし、これらのミネラルの体内での代謝は、上記のような無機化学反応とは違います。たんぱく質中の含流アミノ酸のSの代謝によってH2SO4ができる点は、燃焼による灰化の場合と同じですが、他のミネラルの代謝は全く異なります。Pはリンたんぱく質、リン脂質、核酸などにリン酸のモノエステルないしジエステルの形で存在していたものが、加水分解でリン酸として遊離してきます。その他のミネラルの場合は、食物に塩として存在していたものが、イオンの形で腸管から吸収されます。しかし、体液中に取り込まれた陰イオンと陽イオンの間でイオン当量に差が生じると、体液のpH(酸塩基平衡と言うのがより適切ですが)に影響が現れます。何故でしょうか。

  この疑問に対する答えを、現在使われるBrønsted-Lowryの酸と塩基の定義(Hを出す物質を酸、Hを受け取る物質を塩基とする)に基づいて考えてみましょう。この定義によと、NaOHを生成させたり、ClHを生成させたりすることはないので、 ミネラルのイオン自身は溶液のpHに影響を与えません。しかし、消化管から吸収されたミネラルに由来する陽イオンの当量と陰イオンの当量に差があると、体液のイオンバランスが変化してpHが変動します。その理由は、電気的中性の原理により溶液の陽イオンの電荷の総量と陰イオンの電荷の総量は等しくならねばならないためです。体液の成分のうち量が変化するのは、重炭酸イオン(HCO3)です。陰イオンが過剰のときは塩基として作用するHCO3が減って体液への酸負荷が増し、 陽イオンが過剰のときはHCO3が増えて酸負荷が減ります。このようにして食品中のミネラルの組成が体液の酸塩基の平衡に影響することになります。そして、このように発生した体液の酸塩基負荷を解消するのが腎臓の役割です。酸負荷時には、尿中に過剰な陰イオンとHを、塩基負荷に対しては過剰な陽イオンとHCO3を排出して対応します。我われの体は体液の酸塩基平衡を維持する機構によって、食物から体液中に取り込まれたミネラルに由来する陰陽イオンの量に不均衡が起きても、これを解消することができるのです。したがって、1990年代に「酸性食品・アルカリ性食品」を否定する根拠として、生体の強力な緩衝機構のため食事によって体液のpHが変動しないことが強調されましたが、pHが変動しないように腎臓が酸を排出してくれているのが現実の姿です。以前なされた議論は本末転倒であったと言うべきでしょう。

これから先の説明には、腎臓による尿への酸の排出の生理学を理解しておく必要があります。腎臓が排出する酸としては、H2PO4、クレアチニン、尿酸、 馬尿酸などの滴定酸(titrable acid TA)とNH4があります。このうち重要なのがH2PO4NH4です。TAの量は、尿を正常血漿や糸球体濾過液のpHである7.4まで滴定するのに要するアルカリの当量で表されます。生理学の教科書に書かれているように、腎臓から尿への正味の酸排泄量(net acid excretionNAE)は、これら腎臓から排出された酸の当量から尿に排泄されたHCO3(塩基として作用する)の当量を差し引いて、次式で表されます。

NAE  NH4  TA  HCO3

ところで、 酸塩基平衡の維持のため尿に排泄される酸の量(NAE)と食物中のミネラル量とが、どのように関係づけられるのでしょうか。 ドイツのRemerManzが、この関係を定式化するなかでPRALを定義しました。1990年代中頃のことです。


今回は、食物のミネラルの酸化の実態とミネラルの代謝の様子を説明しました。両者の間で実際に起きていることは違いますが、前回説明したように、食物の酸度・アルカリ度を食品に由来する陽イオン(Na++ K+ + Ca2+ + Mg2+)と陰イオン (Cl+ HPO42 + SO42) のイオン当量の差で求めようとする発想は同じです。次回は、酸塩基平衡の維持のため尿に排泄される酸の量(NAE)と食物中のミネラル量とがどのように関係づけられるかを考えます。いよいよ佳境に入ります。
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